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「カレーは日本が世界に誇るポップカルチャーである」
最近、そのことがようやく巷でも認識されはじめてきたのではないでしょうか。
そのきっかけは「ゴーゴーカレー」のNY進出成功などのニュースで、「どうやら日本のカレーは海外から見ると凄いらしい」と気づかされたり、「本気でインドのカレーを作るなら、インドでインド人が作るものには敵わない。日本には日本の良さを活かしたカレーの着地点があるはずだ」と原点回帰の気風があったりと、いろいろあるかと思うのですが、何やら「ANIME」がフランスで評価されてからポップカルチャーへと扱いが変わったのにも似ていますね。
が、どの世界でも、「そんなことはとうの昔にやっちゃってるよ」なんてぶっ飛んだ感性の先輩がいるもので、東京のカレー界で言えば「GHEE」とその赤出川マスターこそがそれ。
ファッションや音楽といった時代の先っちょを走るカルチャーと同列にカレーを並べた、 いわば「ポップカルチャーとしてのカレー」のマスターピースとでもいえる存在なのです。 「GHEE」、それはクリエイターが出会う場であり、幾多の信奉者と派生店を生み出した場であり、消息を絶ったり復活したりが常に話題になる・・・まさに伝説のバンドの様なカレー屋さん。
実際、クリエイターという人種は常に刺激を求めるものですから、その中心にカレーがあるのはとても自然なこと。カレーはいわば、とても健康的なドラッグなのですから。(辛さというのは実は痛覚であり、とても辛いカレーを食べると脳内から鎮痛のためエンドルフィンという物質が放出されます。このエンドルフィンにはモルヒネに似た効果があり、いわゆるエクスタシーを生み出すのです)
神宮前で22年続いた「GHEE」は、若き日のNIGO氏がバイトをしていたり、村上春樹が通っていたりと、神宮前カルチャーに大きく影響を与えたお店でした。
アパレル会社を経て「GHEE」ヘと参加したシェフの赤出川氏は20年もの間「GHEE」でカレーを創り続けた後、2004年に独立。「GHEE」の近くに「ファンシード」というレストランバーをオープンします。
しかし「GHEE」は2005年3月に閉店、「ファンシード」も2007年惜しまれながら閉店。「GHEE」と赤出川さんが作るカレーは文字通り伝説となってしまったのですが……。「あの味」を継承しようとするお店が続々と登場!
◎新潟「vovo」……「GHEE」で働いていた方が2006オープン。
◎市ヶ谷「CafedeMoMo(カフェドモモ)」……2007年オープン。赤出川さん自ら厨房に立ちメニューディレクションしたお店。
◎神宮前「CURRY UP」……「GHEE」でのバイト経験があるNIGO氏がプロデュースし、2010年オープン。シェフの橋本氏は「Café de MoMo」の厨房で赤出川氏からマンツーマンでカレーの指導を受けたそう。
◎京都烏丸御池「カマル」……「GHEE」でのバイト経験のある方が2012年オープン。
などなど。
そして……、ついに2013年、赤出川氏による「GHEE」のカレーが神宮前に帰って来ました! TEX-MEXのお店「BROWNHORSE」の場所を借り、ランチのみの復活ながら、かつての「GHEE」「ファンシード」にほど近い立地はファンにとって感慨深いもの。
そして「GHEE」のアイコンとも言える激辛ビーフカレーも昔と変わらぬ味……、と言いたいところですが、いえいえ、そんなことはないんです。古びて味がぼけたなんてことではなくて、実はその真逆、パンチ力が何倍にもアップしているんです。
過剰なほどにクローブをガツンと効かせたその方向性は相変わらずながら、時代の変化に合わせるどころか、その先を行くハードな辛さへと進化。だいたい、昔行った激辛カレー屋に久々訪問すると「あれ?辛くない」なんて思うものですが、ここでは油断してはいけませんよ。
今回のアワードのメダルをお届けにあがった際、赤出川さんはメダルを手にちょっと照れるような笑顔で「俺には重いなぁ」と一言。そう、「GHEE」はいつだって、その時代を軽やかに走っていたのですよね。
こんなに、いつまでもかっこいいカレー屋さん、他にはありませんよ。
(文:カレー細胞)