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カラピンチャ

(兵庫・王子公園)
住所: 神戸市灘区王子町1-2-13
電話: 078-805-3039

 2014年、関西カレー界を席巻したのは、なんといっても「スリランカ旋風」。2011年あたりから急激に増加を始めたスリランカ料理のお店たち。スリランカ人によるもの、日本人によるもの、そのどれもが名店揃いでありながら、それぞれの個性をしっかりと打ち出しており、まさに今関西のスリランカ料理シーンは質・量とともに圧倒的な状況となっています。一方で、スリランカカレーを謳わずとも、ワンプレートに複数のカレーやおかずを乗せた「スリランカインスパイア」なカレー店も増加中。

 私の予測では、この「関西スリランカ旋風」は単なる一過性のブームではなく、日本カレー文化の明日を語る上で重要なキーとなっていく気がするのです。そして、今回のアワードを受賞した「カラピンチャ」というお店には、そのヒントが詰まっていると思うのです。

 そもそも、一体どうして関西でこれほどまでにスリランカカレーが受け入れられているのでしょう?それには3つの理由があると思います。

 まずやはり、先達たちの存在。花博で来日し、神戸「コートロッジ」(2011年閉店)を経て大阪スリランカ料理の普及に貢献してきたラッキーさん(現「ワーサナ」)、日本人によるスリランカ料理店のパイオニアとして90年代から営業を続ける「カルータラ」の横田さん。彼らが築き、広げてきた関西スリランカ料理のネットワーク抜きにして、今の「スリランカ旋風」は起こり得ないでしょう。

 そして2つめは、コクと旨み。ある種頑固な面がある、関西食文化の世界。ことカレーに関しては、「肉は牛肉が上等」「カレーの美味さはコクである」という認識が非常に強くあるわけです。東京では盛り上がりを見せる南インド料理が関西、特に大阪でなかなか広まらないのは、多分その2点。一方で、スリランカ料理は米を主食としながら、ココナッツミルクや鰹出汁(正確にはモルディブフィッシュ=ハガツオ)によるコクもあり、牛肉も用いることから、関西カレー文化と非常に親和性が高かったのではないかと思うのです。

 そして3つめ。これは私見なのですが多分、きっとそう。関西粉もん文化との親和性です。スリランカカレーを味わう醍醐味は、混ぜて混ぜて混ぜること。昔からの躾でしょう、東京などでは食べ物をぐちゃぐちゃに混ぜることに抵抗がある人が多い(「ナイルレストラン」の「まじぇまじぇ」がネタになるほどですから)のに対し、粉もん文化が浸透した関西ではそれほどの抵抗がないんです。ことカレーに関しても、元々関西には「自由軒」のインデアンや、「ニューライト」のセイロンライスなど、カレーをぐちゃまぜでいただく素養があった。お家でもカレーライスに生卵とソースを加え、ぐちゃっと混ぜて食べる親を見て育っているもんですから、混ぜて食べるスリランカカレーを受け入れるのにそう抵抗はないわけです。

 かような背景に支えられ巻き起こった「関西スリランカ旋風」。その中で注目を集めた一人の青年がいました。彼の立ち上げたブログ『未来のスリランカカレー店「カラピンチャ」オープンへ道のり』に因み、「カラピンチャ君」という愛称で親しまれた青年・濱田さんは、先の「カルータラ」の横田マスターと共にスリランカを巡ったり、「ワーサナ」のラッキーさんのツテでスリランカの家庭に住み込んだり、レストランでひたすらココナッツを割るところから修行したり。スリランカスタイルで上半身裸になり、ひたする現地修行を続ける日本人青年の姿はネットでも噂に。

 日本に戻り、移動販売などでスリランカカレーを提供し始めたカラピンチャ君こと濱田さん。2012年に、神戸・水道筋商店街の沖縄料理屋の場所を借りてランチ営業を始めた頃には、ブログの読者や関西カレーマニアの間でもすでに人気者となっていました。

 もともと地域の絆が強い水道筋。「スリランカカレーって何やねん?」と最初は興味本位だった地元の皆様も、そのカレーの美味しさと、夫婦二人三脚で頑張る濱田さんの親しみやすい人柄に触れると、たちまち常連に。

 間借り営業を続けながら、「未来のスリランカカレー店 カラピンチャ」の実店舗オープンへの道を模索していた横田さん、当初は大阪方面で物件を探していたのですが・・・2013年12月20日「カラピンチャ」実店舗ついにオープン!「未来のスリランカカレー店」が現実になった瞬間です!!場所は、間借り営業を続けていた水道筋商店街から眼と鼻の先、王子公園駅前。

 「この付近で始めるのも良いかな、と思いはじめてます。」と濱田さんが言っていた通りになりました。

 異国の地スリランカの家庭にも溶け込み、日本の古い商店街にもスッと溶け込む濱田さんの人柄は、作り出すカレーにも表れています。

 その日その日のカレーや幾つかの料理をプレートの上でライスに混ぜていただく「カラピンチャ」のカレーは、スッと自然とカラダに溶け込む優しさ。しかしただ優しいだけでなく、一品一品が深く染み渡るような美味しさでありながら、混ぜるたび新しい味わいに変わり全く飽きることがありません。そして驚くべきは、食べたあと体が軽くなること!

 スリランカの家庭のカレーをベースに、日本の旬の食材をふんだんに使っている「カラピンチャ」のカレーは油が少なく、しかし満足感を与えてくれる魔法のようなカレーなんです。

 今回のアワードで「カラピンチャ」が受賞した理由は二つ。一つは、関西を席巻する空前の「スリランカ旋風」を代表する、結晶のようなお店であること。関西スリランカ料理界の先達に支えられ築き上げられた、スリランカと日本の食文化を融合したそのスタイルは、一過性のブームを超えた日本カレー界の一つのマイルストーンとして記憶されるべきでしょう。そしてもう一つは、新しいカレーの地平を切り拓く新しい世代へ希望を与えた存在であることです。

 ブログ上の『未来のスリランカカレー店』が、スリランカとつながり、日本中のカレーファンとつながり、地元の方々ともつながり、間借り営業を経て、現実の人気店「カラピンチャ」となるまでのその経緯は、いったいどれだけの人々に行動するきっかけを与えたことでしょう。

 今、「カラピンチャ」と濱田さん夫妻の周囲には、志をもつたくさんの人々が繋がっています。過去と未来、日本とスリランカ、インド、ネパール、etc…ジャンルや国籍の違いを越え、互いに刺激を与え合い、状況を変えていく。ただひたすら美味しい・幸せに向って進んでゆく。そうそう、この感じ。このミックス感こそが日本のカレー文化なんですよ、きっと。

 『未来のスリランカカレー店』は実店舗となってまた、別の意味で未来を見せてくれるカレー店となったようです。

(文:カレー細胞)

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